取引先から値上げ要請を受けて一人で悩んでしまっていませんか?
本来、購買部門は様々な理由で値上げ交渉を受けることがあります。
ただ、ずっとデフレや好景気下で調達をしてきた購買担当者は値上げ交渉の経験が少ないので困ってしまうはず。
・値上げの交渉を受けたけど対処法がわからないよ…
・値上げを受けないと供給が止められるのでは?
・値上げの金額が高いか安いのかもわからない…
・会社の方針はコストダウンだし、どうすればいいんだ?
この記事では資材調達購買歴25年で値上げ交渉の経験も豊富な筆者が「値上げ交渉の対処法」を解説します。
※なお、中小企業庁から値上げに対する「価格交渉ノウハウ・ハンドブック」が公表されています。概要をつかむだけなら有益なので参考にどうぞ。
≫中小企業・小規模事業者のための価格交渉ノウハウ・ハンドブック(2017年最新版)
値上げ交渉には基本的な手順が存在します。
ほとんどの交渉は6つのステップを行うことで解決できます。
この記事を読むことで、あなたが値上げの要請を受けたとしても、冷静に的確な判断ができるようになりますよ。
調達購買部員が値上げを受けた時の対応【6ステップで解決できます】
あなたが値上げ要請を受けたときは、6つのステップで解決できます。
ステップ1:取引先の説明をよく聞く
ステップ2:根拠を明確に記した書面の提出を求める
ステップ3:一回目はお断りする
ステップ4:譲歩案を検討し提示する
ステップ5:交渉を開始し合意を目指す
ステップ6:吸収策の提出を求める
値上げ交渉では、すべてを受け入れる必要はありません。
拒否したからといって供給がストップすることもありませんよ。
ということで、さっそく「値上げ交渉を受けたときの6手順を解説していきましょう!
ステップ1:取引先の説明をよく聞き社内へ展開
購買部門の役割は「買いで利益を稼ぐ」ことにあるので、基本的には植上げ交渉は断固お断りする立場です。
しかし様々な理由で「値上げ要請」を受けることがありますよね。
値上げ対応は、まずは値上げの理由を聞くことからスタートします。
・需給のバランスが極度にタイトになる
・為替相場の変動
・原材料の高騰
・メーカーの事故や天災
・取引先の経営悪化
上記の要請の中には、真に必然性のあるものもあれば便乗値上げも含まれます。
なので、購買部門は値上げの根拠をしっかり精査してケースバイケースで対応しなければなりません。
・値上げの根拠
・現行の価格水準
・過去の取引経緯
値上げの中身と値上げしてほしい本当の理由をよく聞き出します。
原価の3要素とは「原料費」「労務費」「経費」です。
・調達している原料・材料・部品が値上がりしているのか
・労務費が上昇しているのか
・原油、電力などの費用が値上がりしているのか
・経営が苦しい、または赤字製品なのか
・撤退を考えているのか
「原価ってなに?わからないよ!」という方はこの本をどうぞ。
「原価」の解説本を10冊以上読んだわたしが、この本がベストだと断言します。
初心者でもわかりやすいので、原価の知識はこの一冊を読んでおけばOKです。
実は原料費の値上げ以外のことは、交渉で解決できます。
ステップ2:根拠を明確に記した書面の提出を求める
値上げ交渉に慣れた担当同士であれば、ステップ1の段階で書面も準備してきますが、相手が値上げに慣れていないこともあります。
その場合は書面の提出を求めましょう。
社内や得意先の了解を得るために必要だと説明し要求すればOKです。
・前回価格からの時系列グラフで提出してもらう
・労務費は立地地域の平均賃金の推移を提出してもらう
・原油、電力などの費用についても過去からの推移をグラフ化してもらう
価格調査の情報ソース
製造にかかわる価格は様々なソースで必ず調査できます。
例)公的サイト、業界サイト、日本経済新聞など
もし分からない原料相場があるなら調査不足を疑いましょう。
※参考例
(1)原油 WTI:West Texas Intermesiate https://markets.businessinsider.com/commodities/oil-price?type=wti
(2)電力 電力価格=料金単価+燃料費調整単価https://www.energia.co.jp/elec/b_menu/index.html=料金単価https://www.energia.co.jp/elec/seido/nencho/index_d.html=燃料費調整単価
(3)電極などの一般的ではないものも「財務省貿易統計」のHPで調査可能です。 https://www.customs.go.jp/toukei/srch/index.htm
上記、財務省貿易統計の「検索ページ」タグの「普通貿易統計」「統計品目情報」「統計品別推移表」をクリック。
輸出/輸入の選択→「輸入」を選択し、末尾の品目の指定欄にHSコードを入力します。
例えば電極の場合、HSコードは「854511010」です。
とはいえ、購買部員が値上げ要請を受けてから調査していたのでは遅すぎです。
専門職としてプロを目指すなら、少なくとも週に1回は情報収集する癖をつけておくべきです。
なお、市場調査におすすめの情報ソースは「有能な資材調達部員だけが知っている市場情報の入手先5選とまとめ方」の記事にまとめています。
資料を集める目的
値上げの抑制だけでなく、次回の値下げ交渉の材料とするためです。
・値上げ幅の査定
・自社のコストテーブルの整備
・次回値下がり時の根拠資料となる
その時に間違いなく値下げしてもらうための資料として残しておきましょう。
購買担当者は常に一歩先を見据えて行動しなければ務まりません。
大体の場合、この段階で上司や営業などの関係部門に報告を入れます。
ステップ3:一回目はお断りする
繰り返しますが、購買部門の役割は「買いで利益を稼ぐ」ことにあります。
値上げ要請に対してはお断りする断固たる姿勢が必要です。
1回目の交渉では、基本的にお断りをしておきましょう。
これは、あなたのキャリアのためでもあります。
わたしなら次のことをよく説明して、一度目はお断りしています。
- 自社の状況
- 業界他社の状況
- 得意先に価格転嫁ができる根拠があるか否か
注意点
新人バイヤーがメールでお断りを入れている例をよく見ますが、間違った手法ですね。
お断りを入れるにしても、会って直接お断りしましょう。
初回の交渉の場を設けることで、後々の交渉を有利に進める事ができます。
このあたりのノウハウは「値上げ要求に対するお断りメールは逆効果な理由【テンプレは無意味】」の記事で実例解説していますので、参考にしてみてください。
ステップ4:譲歩案を検討し提示する
いったんはお断りを入れたとしても、値上げ交渉は一度出されたらゼロ回答で決着できることのほうが少ないものです。
ですからいったん断りを入れたあとには、すぐに交渉の準備に取り掛かります。
・現行価格のレベル【他社見積もりとの比較】
・値上げ額の妥当性【相場情報から計算可能】
・取引先との力関係【取引量の占有率】
・自社で受け入れ可能な許容値【粗利率から判断】
・過去10年間の取引経緯【貸し借りの度合い、幹部同士の人的交流など】
翌日に再交渉となっても徹夜作業にならないように普段から整備しておきます。
ステップ5:交渉を開始し合意を目指す
ステップ4の作業が終われば、いよいよ値上げ交渉が始まります。
まずはじめに下請法や消費税転嫁法等に違反しないよう十分注意をしてください。
表現の判断に迷うときは、上司に相談するといいでしょう。
ステップ2で文書をもらっておくのは相談できる状況をつくっておくためでもあります。
後ろには上司が控えています。
なので、担当者レベルで交渉がうまくいかないことを恐れてはいけません。
もし本当にやりそうな雰囲気があれば、上司に相談のうえ、相手の責任者の印鑑のある正式書類を求めてみてください。
よほどのことがない限り、価格交渉によって供給を止められることはありません。
ステップ6:吸収策(VE・VA)の提出を求める
時には値上げを認めざるを得ない状況があります。
・マスクや消毒液のように本当に市場に物が不足している場合
・地金や原油など、相場が急騰している場合
とはいえ、値上げをそのまま受け入れていたのでは自社で値上げ分をかぶる事になり収益が悪化します。
値上げせざるを得ない状況であっても、購買担当者にできることはまだあります。
・交渉文書や資料をもとに顧客へ価格転嫁の交渉を行う
・値上げした取引先に吸収案を10点以上出してもらう
・吸収案の中で可能性のあるアイデアを社内で検討する
・変更を検討し、必要であれば客先へ申請する
・価格改定後に便乗値上げや値戻しがないかをチェックする
これらのことを駆使して、値上がり分の価格吸収を行っていきます。
2022年の調達環境は20年に一回の異常事態です
とはいえ、最近は両方が一度に起こっているので、調達の皆さんはつらい思いをしていますよね?
物が入らなくてつらいときの対処法は「調達部長が教える材料供給不足の理由と対処法│胃が痛い毎日から脱出」の記事で解説していますので参考にしてください。
そんなときは「【悲報】悪い円安に対応できない購買部門は不要です│3つの行動基準」の記事をどうぞ!
今はつらいですが、行った改善が自社の資産やあなたのノウハウとして残ります。
購買担当者が値上げ交渉を受けた際の対処法まとめ
購買担当者が値上げ交渉を受けた際の対処法は6ステップで解決できます。
ステップ1:取引先の説明をよく聞く
ステップ2:根拠を明確に記した書面の提出を求める
ステップ3:一回目はお断りする
ステップ4:譲歩案を検討し提示する
ステップ5:交渉を開始し合意を目指す
ステップ6:吸収策の提出を求める
値上げ抑制の交渉に慣れていない担当者は、あっさりコストアップを飲んでしまう例が多々あるようです。
担当の営業マンに以下のように脅し文句をちらつかせられますから無理もないのです。
「値上げしないと、値上げを認めた会社から優先的に納品される事になる」
「値上げを認めないと、供給をストップされます」
ですが、簡単に値上げを認めてしまうと、会社の収益を悪化させてしまいます。
そればかりか、あなたのバイヤーとしての会社の評価も下がってしまいます。
一見どうしようもない「円安」が原因だとしても査定が下がるからつらいですよね。
わたしたち購買部門の役割は「買いで利益を稼ぐ」ことにあります。
今回の6ステップを守って交渉を進めていけば、何の問題も起こりません。
本記事を参考に、値上げ交渉を乗り越えてみて下さい。
なお、円安に対応した購買職の行動基準は以下の記事にまとめています。
≫【悲報】悪い円安に対応できない購買部門は不要です│3つの行動基準
交渉が苦手な方はちょっとした会話のテクニックを知っているだけでも交渉の難易度がグッと下がるから、以下の記事も参考になるかと。
≫現役の購買調達部員が教える価格交渉の説得力が上がる会話テクニック
努力してもダメなら逃げてもOK
とはいえ、2022年の調達環境は購買歴25年のわたしでも会社に行きたくなくなるほど苛酷です。
会社のサポートや仕組みが不足していて、あなただけがツライ状況なら、ぶっちゃけ逃げてもOKかなと。
交渉はスキル構築した上司がやってくれる会社であれば、あなただけがつらい思いをすることもないからです。
弊社のように、購買部員のスキルによって役割がハッキリしている会社もあります。
≫資材調達の仕事が激務だと感じたらブラック業界です│即転職でもOK
では、本記事は以上です。