資材購買調達部門にとってコストダウンは最も会社に貢献できる仕事のひとつです。
でも、コストダウンの手順やノウハウは個人の経験にまかされていませんか?
そんなとき、経験の浅い新人は困ってしまいます。
・値下げ交渉をしろ!というけど、いきなり申し入れても断られそう、、
・何か大義名分がなければ、申し入れできないよ!
・申し入れ文書がかけない、、、
・コストダウン交渉の上手な取っ掛かり方法があれば知りたい、、
資材購買部門でのコストダウン交渉はマニュアルもなければノウハウは個人任せ。
場合によっては会社の調達方針さえ明確になっていない事がほとんどです。
実際に、わたしも年1億2千万円のコストダウンをノルマに課せられているので、毎日が交渉の連続です。
必死になりながらも目標達成していますから、少しは役立つ情報が出せるはず。
そんな購買歴25年の筆者が以下の2点を解説します。
・値引き交渉で準備する資料5選│申し入れの根拠の示し方と注意点
・報告資料の作り方│見積もり入手後のアフターフォロー
コストダウンの交渉のスタートと終わり方には決まった型があります。
知ればあなたもスムーズにコストダウン交渉を進められますよ。
【脱新人バイヤー】値引き交渉で準備する資料5選と報告資料の作り方
コストダウンの申し入れ時に事前に準備すべきものは以下の5つです。
1、大義名分
2、自社製品の売価ダウン状況・他社との競合状況
3、取引先全体の平均コストダウン率と該当取引先との差
4、対象となる取引先との過去の経緯、発注単価のトレンド等の資料
5、協力してもらえた場合の見返り(取引先のメリット)
1、コストダウンの申し入れ時の大義名分
コストダウンを申し入れる大義名分は一般的に4つだけです。
1、会社方針による定期コストダウン
2、業績回復のための緊急対応
3、営業部門からの要請
4、新製品の目標コストへの対応
4つから選んで交渉を開始しましょう。
2、自社製品の売価ダウン状況・他社との競合状況
大義名分ができたら以下の資料を準備しておきます。
・自社製品の売価ダウン状況
・他社との競合状況
これは自社の状況を示す資料です。作るのは難しくないですよね?
問題は取引先のために準備する資料です。
多くの資材購買担当は、取引先のための準備をおろそかにしがちです。
この点ができるかどうか?がコストダウン交渉が「上手くいくバイヤー」と「失敗するバイヤー」との差になります。
具体的には以下のようなものを作成しておきましょう。
3、取引先全体の平均コストダウン率と該当取引先との差
競合他社と比べて、交渉先がどのくらいコストダウンに協力的でないのか?を示すことで、営業マンは上司を説得しやすくなります。
取引先の担当者としては、値引きは自社の売り上げ減につながりますから「イヤな仕事」です。
その「イヤな仕事」の部分をコチラが取り除いてあげることができればコストダウン交渉はグンとうまくいきます。
なお、ISO9001を獲っている企業であれば、定期的に「取引先の評価選定」をしているから、評価時に取引先へ事前に送付しておくと効果的です。
「今期の取引先評価ではコストダウンの部分が他社に比べて負けています」
といった理由をつけてコストダウン交渉を申し入れれば、なんらかの交渉道具を持ってきてくれるものです。
4、過去の経緯、発注単価のトレンド資料
交渉を申し入れるときには、取引先が交渉の場についていただけるような資料を準備します。
・取引開始に至った経緯
・個別単価推移と発注数推移のグラフ
取引開始の経緯や取引の歴史を準備するのは、購買の重要テクニックです。
取引先の担当も先輩の実績にドロを塗ることは嫌がりますからね。
5、協力してもらえた場合の取引先のメリット
このコストダウンが取引先にもメリットがあることを強調すると、交渉が始めやすくなります。
具体的にはコストダウンに協力することで得られるメリットを提供します。
例)
- 製造技術力のアップが見込める
- 生産性のアップが見込める
- コスト力が他社への売り込みに役立つ
取引先のメリットとして、こんなイメージで提案するといいですよ。
・経営改善の支援
・工程改善の指導
・VA提案の受付
・品質会議の実施
・展示会・商品説明会の実施
・次回見積りへの優先参加
・業界の先行きの情報提供
・取引先製品・部品の技術力評価(同業他社比較)
・トップとの面談
・感謝状の授与
コストダウンの申し入れを効果的に行うコツ
コストダウンの申し入れ方法にも、うまくいくコツがあります。
申し入れの方法は主に2つありますよね。
方法1:お願いベースの申し入れ
方法2:具体的な金額を提示
お願いベースの申し入れをするときのコツ
お願いベースの申し入れをするときには、以下の方法が有効です。
・主要な取引先を集めて、幹部から方針の説明を行う
・説明会の参加メンバーは多いほどよい
・個別のお願いは二人以上が在席して行う
取引先の営業マンも、相手が偉い人だったり、人数が多かったりすれば真剣度がわかります。
ただし、この時に威圧的な感じを出したらダメ。
透明性と公平性の確保は必須です。
・幹部は会社としての姿勢を示すのみ。
・詳細の詰めは担当が行います。
・相手よりコチラの人数が多い場合は、一人はメモ係
・交渉は対等の立場で行うことを守ってください。
・申し入れの言い方も下請法の改正情報には注意して行いましょう。
過去にokだった方法も今はNGになっていることがあります。
例えば「書面による一律5%値引き要請」などはかなりグレーなので控えたほうがよさそうです。
具体的な金額を提示するときのコツ
予算またはターゲットコストを提示し、回答を迫る場合にもコツがあります。
・これしかお金は出せないと自信を持って宣告する
・上記数字の80%ぐらいから交渉をスタートする
・営業マンは裏を取るので関係者に根回ししておく
自信を持った指値を宣言するには、数字が出てきた根拠を説明できなければなりません。
そのために必要なデータは事前に作成しておきます。
・技術など他部署の情報
・過去のデータから類推
・他社との相見積もり
指値を迫ると、営業マンは裏を取ろうとするから、社内関係者への根回しも忘れずに行います。
上手い営業マンになると、品質の低下やサービスの低下を条件に出してくる場合があります。
営業マンの時間稼ぎの常套手段ですから、そんなときは代替案を具体的に出していただきましょう!
うまくいけば採用すればいいですからね。
「評価したこと」に満足して交渉を終わってしまいそうですが、もうひと踏ん張りします。
具体的には「やはり価格を下げてもらうしかない」ことを説明し交渉から逃がさないことが大切です。
この点ができるかどうか?でコストダウン交渉が「上手いバイヤー」と「失敗するバイヤー」との差がつきます。
あくまでも、最終ゴールはコストダウンということを忘れないようにしましょう。
コストダウンが上手くいった場合の対処法
・ここで満足して交渉を終わらせるのか
・または違うアクションを打っておくか
ここでもコストダウンが「上手くいくバイヤー」と「失敗するバイヤー」との差がつきます。
例えば、自分が車を買う際のディーラーとの交渉に置き換えると分かりやすいでしょう。
かならず、最終のダメ押し交渉をしますよね?
具体的に、このとき資材購買部員がとるべき行動は以下の5つです。
1、さらに強い交渉をするかソフトな交渉をするかケースバイケースで考える
2、相手側の言い訳は一応聞き、後は無視する
3、営業マンの中には、価格以外のメリットを強調してくるが冷静に対応する
4、値下げ回答がないときは、「後から四の五の言わないね」と念を押す
5、若干の値下げで事を収めようとしたときは、はっきりと断る
言い方は悪いですが、お金を払う買う側が弱気になる必要はありませんよ。
自分がものを買うときもそうではないでしょうか?
とはいえ、気持ちはわかります。
この場合も、コストダウン交渉の型がありますから、次のようにしてください。
①安い見積もりの取引先に切り替える事に不安があるとき
現状の取引先の出方を伺う事が必要です。断られると内心痛い場合がありますからね。
②本命の取引先が、強気の場合
本命にしている取引先から他社の弱点を指摘してくることがあります。
「そんな安い価格でできるはずがない」
「貴社へ入りたいための政策価格ではないですか?」
「そんな価格では納期・品質が心配です」
どこかで聞いたセリフですよね。
その場合は、話に乗っかっても構いません。
なぜなら、相手が交渉のテーブルにまだのっているからです。
「では確認しましょう」などといって、新規と既存の取引先の製造現場を確認、比較して最終決定を行うことができますよ。
③価格以外の部分を強調してきた場合
トータルの価値や、過去の実績を持ち出してくる取引先もあります。
この場合は、冷静に対処します。
価格以外の部分のサービスがダントツの会社は珍しいです。
次の点を冷静になって自分に念押ししましょう。
・コストダウン交渉においては、価格が第一優先です
・余計なサービス、過剰品質、デザインは不要
・品質、納期、営業マンの協力姿勢は当たり前の企業努力
当たり前のことを、ことさら強調されても無視して構いません。
④協力価格を出していただけない場合
中には値引きに応じられないケースもありますが、クギを差しておくことも大切です。
「あとから文句言わないでね!」とくぎを刺しておきます。
理由は、価格が出揃ってから後出しで言うテクニックを使う営業マンがいるからです、
「そのスペックならうちも安くできた」
「もう少し強くご依頼をいただいていれば」
など。
これを認めてしまうと、他の取引先の信用を失うばかりか、社内からも何かあるんではないか?勘ぐられる原因になります。
わたしも過去に山ほど経験していますから、あなたも重々注意してください。
交渉を上手に進めるための見積り書の見かた
提出してもらった見積書は必ず精査する必要があります。
精査をする能力がなければコストダウンが成功したとはいえません。
例えば、あなたが「いつも値引きを言ってくる資材購買部員」だとしましょう。
営業マンは、高い見積もりを提示しておいて、コストダウンを言われたら、あらかじめ上乗せしておいた金額を再見積もりとして提出してくるでしょう。
どんな行動をとるかも重要なポイントですね。
解決法は、シンプルに「分からないことは相手に聞く」ことです。
・質問により見積もりの根拠を聞きだす
・相手が水増ししているかもしれないという前提で的を絞り質問する
・相手の言い訳には根拠を示してもらうこと
・普段からコストデータを整備しておく
まとめ
コストダウン交渉は資材購買の仕事をするかぎり、永遠に行わなければなりません。
そして、正当な評価もされにくい厳しい仕事です。
わたしも毎年1億2千万円のコストダウンを達成しているにもかかわらず、目標が下がることもなければ、達成して褒められたこともありませんよ。
しかし、コストダウンのスキルは必ず将来、役に立ちます。
コストダウンができない資材購買部員はlowValueな、価値のないバイヤーです。
一方で、こんなバイヤーなら会社から、または他の企業からも価値のある存在となる事ができますよね。
・普段から常にコストデータを整備
・材料費、加工費、現場確認、他社比較を意識して仕事をしていく
・適正価格を自ら算出し、その価格との差を交渉の基本とする
本記事では、脱新人するためのコストダウン交渉でのスキルアップのコツを説明しました。
他の記事でも、購買マンがスキルアップする方法を実践的に書いていますので、引き続き参考にしてみてくださいね。
お互いに一流の資材購買マンを目指していきましょう!
第3回:コストダウン交渉で準備する資料と報告書の作り方 ←本記事で解説
・調達購買部員が値上げを受けた時の対応【6ステップで解決できます】
・値上げ要求に対するお断りメールは逆効果です│無意味なテンプレ例あり
今回は以上です。