資材調達・購買部門はいつでも「コストダウンお願いします!」と言っているイメージがありませんか?
それだけでコストダウンができるなら購買部門は楽な仕事ですが、実際はそうはいきません。
資材調達・購買部門では状況に合わせて様々なコストダウン手法を使っていますよ。
コストダウンのノルマがあるけど、なかなか成果が出ない……やっぱり「ただ下げてくれ」では成果が出ないよ。
コストダウンのやり方なんて教えてもらっていないし、何かいい方法はないでしょうか?
こんな悩みを解決します。
この記事では、資材購買部歴25年で現役の資材購買部長でもある筆者が「実務でよく使うコストダウン手法10選」をまとめました。
ベテランの方も、知らなかった手法を試してみるのもいいでしょう。
あなたのコストダウンノルマ達成に役立ててください。
【新人向け】成果が出るコストダウン手法10選│購買部長が教えます
よく使うコストダウン手法を10選にまとめました。
①単純値引き
②見積り合わせ
③政策見積もり
④VE/VA
⑤コスト査定
⑥まとめ発注
⑦数量ランク採用
⑧少ロット化
⑨材料支給
⓾共用化
とはいえ、10パターン全部を毎回使っていたのでは大変です。
では、どんな時にどの手法を使うと効果的なのでしょうか?
順番に解説します。
①単純値引き
勘と経験と度胸のKKDでとりあえず「値段を下げてほしい」とお願いする方法ですね。
言わなければ価格は下がらないということもあるので、立派なコストダウン手法です。
単純値引きはあまり効果が期待できないですが、こんな時に使います。
・少額であまり工数をかけても仕方がない時
・コストダウンに無関心ではないことをアピールしておきたい時
単純値引きの方法は2つです。
・泣き落とし
・根拠のない強気
「端数調整だけでもなんとかなりませんか?」
「予算が厳しくて」
「上長の決済が10万円からなのでなんとかその範囲で」
なんていうのをよく使います。
最初はそれでもいいですが、根拠がない交渉は成果も小さいですよ。
根拠もなしに「とりあえず下げてもらわないとダメだ」みたいな交渉もNGです。
いつもそればかりだと、相手も折り込み済みの高めの見積もりを提出してきますから、単なる儀式のようになってしまいますよね。
コストダウンを申し入れるときの値引き根拠の示し方は「資材調達部長のコストダウンの申し入れ方法│値引き根拠の示し方」の記事で解説していますから、レベルアップの参考にしてみてください。
②見積り合わせ
見積もり合わせは、既存品を違う取引先で新たに見積もりする方法です。
定期的に新たな見積もりを入手して比較しますので、業界の最新情報が手に入るメリットがあります。
例えば、パソコンや家電製品が分かりやすいですよね。
・同じ価格でも最新機種の方が高機能
・同じ機能でも時間がたつと安くなる
上記のとおり。
注意点としては、安い価格が出たらきっちりその取引先に注文を出すことです。
競争状態を常に演出することも購買のスキルです。
安い見積もりを出した取引先に注文を出すには、以下の関係部門の同意をとっておくことも必要です。
・実際に使う現場
・仕様書を作る技術部門
・客先認定がある場合は顧客の了解も必要です。
見積もり合わせを行うには経験もある程度必要です。
単純値引きより少しレベルが高いですが、見積もり合わせによる精査を繰り返していくことで、購買部員としてのレベルアップが見込めます。
見積もり精査の方法は「【保存版】資材調達購買のプロが教える見積り書の見方と実践テクニック」の記事に実践方法をまとめていますので、参考にしてみてくださいね。
③政策見積もり
政策見積もりというのは、将来の注文量の増加を示唆して値引きしてもらう方法です。
具体的な交渉イメージは以下のとおり。
「将来的に増産計画があり、量が増えますから値引きしてください」
「類似品でも新規受注が決まっているから、トータルで検討できませんか?」
量が増えるということは取引先にとってメリットがありますから、すこし還元してくださいね!という交渉です。
交渉の幅は品ものによって変わります。
梱包資材のような既製品:すでに大量生産しているので、輸送費分の値引き程度
自社のカスタム品:発注量の増加率×10%の値引きが見込める
(例:発注量が2倍になるなら20~30%を狙って交渉)
逆に、数が増えているのに何も交渉しないことは資材購買部員の怠慢でして、会社からすると「何やってんだ!」な状態になります。
とはいえ「どんなときにコストダウンの申し入れをするべきなのか?」はパターン化されていますので安心してください。
「購買原価低減活動のポイント3選│資材調達歴25年の部長が教える!」の記事にまとめておきましたので参考にどうぞ。
④VE/VA
機能を分析して、同じ機能を持った安い原材料に変更したり、購入仕様を見直すことで価格を下げる手法です。
購入仕様とは?
ある製品をつくる場合に、その製品に要求する特定の形状、構造、能力成分、寸法、精度、性能、製造方法、試験方法などを定めたものをいいます。
この仕様を文書化したものが仕様書になります。
VA/VEとは、以下の頭文字をとったものです。
VE=Value Engineering(価値工学)
VA=Value Analysis(価値分析)
詳細はこちらで参照:ウィキベディア⇒VEバリューエンジニアリング
VE/VEの具体例
例えば、鉛筆とシャープペンシルの関係で考えてみましょう。
鉛筆の機能は紙に「何か(文字など)を書く」ことです。
なので、芯の部分があればガワは木材である必要はありません。
そこで、機能は確保したうえで、より安く買える方法を考えます。
▼具体的なVEのアイデア
・材料の厚みや幅を変更して安くする
・材料をリサイクル含有率の高い樹脂に変更して安くする
・梱包資材の段ボールの等級を落として安くする
一見、関係ないようでも機能を分析すると思わぬ方向に展開することがあります。
ドリルを買いたい人の目的は穴をあけたいわけではなく、DIYで家具を作りたい
では、穴があらかじめ開いた家具を販売したら売れるのではないか?
上記のとおり。
VEVAの手法は機能をベースに考えるので、時に常識を変えるようなアイデアが生まれます。
VE/VAは仕様自体を変更できるので、取引先の変更よりも大きな効果を期待できますが、仕様を変更するので関係部門の同意をとっておく根回しの技術も必要になります。
・実際に使う現場
・仕様書を作る技術部門
・客先認定がある場合は顧客の了解も必要です。
苦労は多いですが成果も大きいので、積極的に取り組みたい手法です。
なお、ドリルと穴の例は以下の書籍が元になっています。マーケティングの教科書的な本ですが、購買マンも必読です。価格も安いのでポチっとどうぞ。
⑤コスト査定
コスト査定は、資材購買部員が一から理論価格を算出し、見積もり価格と比較してコスト交渉を行う方法です。
例えばこんなメリットがあります。
・理論価格との差があるポイントに集中して交渉ができる
・交渉の説得力が増す
・自信を持って交渉できる
・理論値まで下げることができれば桁違いの成果が得られる
「この購入品の価格は〇〇円が妥当だな」
「見積との値差のこのぐらいまでは交渉できそうだな」
こんな感じに、理論価格が正確に査定できると自信を持って交渉に臨めます。
先ほどの「単純値引き」と違って取引相手にも説得力が生まれるのが良い点です。
あくまでも購買側が算出した原価なので、実際原価とは違う場合もあります。
例えば、計算上ではこれぐらいの工数(時間と人数)で製造できるはずだけど、実際はもっと時間や人がかかっているとかですね。
その場合、お互いに問題点を共有して、一緒になって改善していくという方向にもっていくこともできます。
当社:下がった分の原価を還元してもらえてうれしい
取引先:原価が下がれば競争力がつき、他社にも売れるようになってうれしい
上記のような「お互いがうれしい関係」をWIN-WINといいます。
コストダウンでWIN-WINを作り出すためには、購買の知識や実務のレベルを上げておくことが大事になります。
新人でもコスト査定は可能
とはいえ「コスト査定は上級者向けですよね?」という疑問が生まれると思います。
コストを査定するには以下の3点セットが必要ですし、読む力も必要ですからね。
・損益計算書
・貸借対照表
・製造原価明細書
でも、コスト査定は身近なところから始めることもできます。
取り掛かりとしては類似品との比較が一番おすすめです。
同じような形状の類似品に一つずつポストイットで値札をつけてみましょう。
キロ当たり、一個当たり、メートル当たりなど、単位を統一して比較してみると差が見えてきます。
⑥まとめ発注
まとめ発注とは、一回の発注量をまとめることで値下げを引き出す手法です。
実際に数量が増える政策見積もりとは違って、単に1回の手配数量を増やして値段をさげるだけですからね。
例えば、こんな価格見積もりの商品Aがあったとしましょう。
ロット | 単価 |
---|---|
3000個以上 | 50円 |
2000個以上 | 70円 |
1000個以上 | 100円 |
月に必要な使用量が1,000個でも3,000個買うのがまとめ発注です。
3,000個は3か月分なので、3,000×50円÷3=50,000円/月
取引先としては、まとめることでの原価や輸送費のメリットがあり、安くできます。
ですが、購入側には在庫管理費の負担と在庫化のリスクがあります。
なので、まとめ発注は単独で行うのではなく、次に説明する
⑦数量ランク採用
⑧少ロット化
これらと合わせて使います。
まとめ発注は単なるキッカケで、最終の着地目標は数量ランク採用や小ロット化だったりします。
このあたりから、2ステップマーケティングなどの心理学も応用した上級テクニックも利用していきます。
心理学のテクニックを使った交渉ができるようになったら、どこでも通用するバイヤーになれますから、以下の記事を参考に取り組んでみてください。
⑦数量ランク採用
数量ランクの採用と違って、政策見積りでは以下の成果を狙います。
・発注数の多い時に値引きする効果に加え
・発注量が少なくなってしまったときに下限を設ける
数量が少なくなっても、事前に価格を設定しておけば高値になることを予防できます。
先ほどの商品Aを例にすると1,000個以下の価格も設定してしまいます。
ロット | 単価 |
---|---|
3000個以上 | 50円 |
2000個以上 | 70円 |
1000個以上 | 100円 |
500個以上 | 150円 |
300個以上 | 180円 |
100個以上 | 200円 |
それだけではなく、次の「少ロット化」と合わせて大きなコストダウンを狙っていますよ。
⑧少ロット化
少ロット化は、まとめ発注の逆に購入量を少なくするコストダウン方法です。
シンプルに交渉のハードルを下げる効果があります。
・すでに出ている見積もり条件を変える交渉になるので、交渉しやすい
・担当者は単価そのものは触れないが、数量ランクは変えられることがある
数量ランク採用により商品Aの価格はこのようになっています。
ロット | 単価 |
---|---|
3000個以上 | 50円 |
2000個以上 | 70円 |
1000個以上 | 100円 |
500個以上 | 150円 |
300個以上 | 180円 |
100個以上 | 200円 |
月に必要な使用量は500個です。
・500個を買う場合:500×150円=75,000円/月
・3,000個を買う場合:3,000×50円÷3=50,000円/月
ですが、1か月に支払う金額は150,000円です。
売り上げは3か月分もらえるわけではないので、単月でみると100,000円は自社の持ち出しになってしまいます。
もし、自分の財布ならどうでしょう?
企業も同じです。
このお金の流れを「キャッシュフロー」と言います。キャッシュフローの悪化は企業の収支を悪くします。
ですから資材購買としては500個の単価を下げることが最良のコストダウンになりますね。
単価そのものの交渉のはずが、いつの間にか数量ランクの変更交渉に変わっているでしょう?
500個×150円の75,000円を数量ランクを1つずらして単価100円の50,000円に下げることができれば最高です。
そこまでできなくても、例えば150円を120円にするだけでも月に15,000円のコストダウンができます。
このあたりの心理テクニックを使った交渉術は「コンプラ注意!現役資材調達バイヤーが最大値引きを引きだす交渉術」でも解説しています。
⑨材料支給
購入側の購買力が強い場合、材料を取引先に支給することでコストを下げる方法です。
例えば、取引先が金属材料を700円/kgで買っているところを、自社が650円/kgで買えるなら、支給すれば50円/kgの材料費の削減ができます。
最大に効果が見込めるのは地金支給です。
例えば銀などの貴金属はスクラップを回収して、スクラップの売却益として受け取ります。
その地金を売却せずに、原料メーカーに支給してリサイクルします。
そうすれば、地金売買で発生するマージン代金の分だけコストダウンができますね。
例えば、貴金属の銀の場合、売買に2円/gのスプレッドが発生します。
それだけではなく、現物も取引先にあるので在庫の管理費もかかりません。
材料支給は上記のように、大きなコストダウンも狙える手法ですが在庫の管理や支給手配の工数など、余分なコストもかかります。
⓾共用化
共用化は、まとめ発注とVE/VAの合わせ技です。
資材購買にしか分からない市場情報を他部署にフィードバックするスキルが求められます。
一見、難易度が高そうですが、現場、技術、営業他、他部署との調整が大変なだけで、難しいテクニックは必要なしです。
具体的には以下のとおり。
・現在使用している部材との共用化をする
・今後、量の増えそうな素材の採用を推奨する
・梱包仕様を共用化する
・資材購買部門が調達しやすい部材と共用化することで納期調整が楽になる
・新規品を共用材で設計してもらうことで将来の価格交渉を有利にできる
・マイナー部材を選ばせないことで、値上げや生産中止のリスクを回避できる
採用されてから価格交渉するのではなく、資材調達部門に有利な部材を選定しておくのは、攻めのコストダウンです。
事前に手を打っておくことができると、将来のあなたの仕事を楽にします。
このあたりは「工場勤務の調達・購買部の仕事内容│残業ゼロで快適な日常ルーティン」の記事にて、実例つきで紹介しています。
まとめ
ここまで資材購買部長のわたしが日常よく使うコストダウン手法10選をまとめて紹介してきました。
①単純値引き
②見積り合わせ
③政策見積もり
④VE/VA
⑤コスト査定
⑥まとめ発注
⑦数量ランク採用
⑧少ロット化
⑨材料支給
⓾共用化
この10個のコストダウン手法を使えば、新人であっても効果を出すことができます。
ひとつひとつ慣れながら習得していくと、将来の自分の仕事が楽になりますから、順番に取り組んでみてはいかがでしょう。
日常の仕事が楽になれば、さらに付加価値の高い業務に時間を使うことができますよね。
資材購買の仕事は、スキルが高まるほどにどんどん楽になる不思議な仕事です。
「がっつりは働きたくないけど、どこでも通用する専門性は高めたい!」資材調達はそんなビジネスマンにおすすめな職種です。
日本のビジネスマンも欧米型のプロ人材しか生き残りができない時代が来ていますから、コストダウンスキルを学ぶ価値は大きいです。
コストダウンができるプロ人材はレアですから、どの企業からも求められる人材になれますし、スキルの積み上げとともに年収も積みあがっていきます。
事実、ボク自身も年収を300万円から1000万円UPまで積み上げられたので、再現性は保証しますよ!
では本記事は以上になります。