突然起こる自然災害、感染症の拡大(パンデミック)、不安定な経済、拡大する格差などなど、企業を取りまく環境はとても不安定です。
そんな不安定な状況で、なんの対策もなしに自分の会社や大切な取引先が経営しているとしたらとても不安になりますよね。
最近では景気低迷も加速していますから、大企業はもちろんのこと中小企業であっても、会社や社員を守る事業継続力の強化が求められています。
そして、その対策を具体的な文書に落とし込んでつくるのが事業継続計画(BCP)です。
BCPというのは、自然災害や感染症などの発生で企業が影響を受けた際、いち早く事業を復旧するための計画書に当たります。
今回の記事では
・今の危機を契機に今すぐ事業継続の体制を見直したい
・でも、BCPってわかりにくい
・でも、何から手をつけたらいいのかわからない
こんな疑問を解決します!
危機に備えることは、自社の経営力向上にもつながりますからね。
この記事では、資材購買部員を20年務めている筆者が、実際に中小企業でBCPを策定してきた経験から、BCPの考え方を具体的に紹介していきます。
さらに!自画自賛ですみませんが、今回紹介するBCPの手法は以下の点でも優れています。
・簡単でありながら、世界的に通用します
・リスクに強くなるマネジメントの手法を使っています
ひな形も公開しますので、BCPの策定に悩んでおられる方はぜひお役立てください。
【ひな形アリ 】パンデミックに対応したBCP事業継続計画の作り方
BCPを策定するためのガイドラインは2020年現在、ボクの知る範囲では2つ存在します。
基本的に、どちらかのガイドラインもそのまま、やっていくだけでOKです。
1、「中小企業強靱化法」に基づく「事業継続力強化計画」ガイドライン
2、シンガポールの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するBCPガイドライン「Guide on Business Continuity Planning for COVID-19」
1は、2019年に可決された「中小企業強靱化法」に基づき、経済産業省が中小企業のBCP策定を支援するため、策定したガイドラインです。
2は、2020年にシンガポールにおいて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の一次感染者が発見された後、すぐに発行された同感染症に対するガイドラインのことです。
上記のガイドラインにしたがって、一つ一つの項目に対応していくことで、
最終的にどんな規模の事業者でも、立派なBCPが出来上がるようになっています。
基本的な知識が無くても、問題なく完成する事ができますよ。
どちらを採用するのか?は「使いやすさ」で決めていただければOKです。
それぞれにメリットがありますから、メリットの大きいほうで決めましょう。
1、「中小企業強靱化法」に基づく「事業継続力強化計画」ガイドライン
幅広いBCPに対応しており、経済産業省が策定しているので進めやすいです。
また、経済産業省の「認定制度」を利用すると補助金を受け取ることもできます。
2、Guide on Business Continuity Planning for COVID-19
コロナウイルスに対して発行されたガイドラインのため、パンデミックに特化した優れた内容となっています。
難点は「英語で書かれている」という点ですが、この記事では日本語に訳して紹介していきますから安心してください。
それでは、具体的な手順について説明していきますよ。
そもそもBCPとは
まずは、BCPの言葉の意味について理解しておきましょう。
BCPとは Business Continuity Planの略で、日本語では「事業継続計画」です。
「事業継続計画」とは、企業が社会的責任を認識し、自然災害や事故などの有事の際にも商品やサービスの供給を中断しないために、事前に策定するものです。
砕いて言えば、調達資材購買部でのBCPとは、
「有事の際にも調達品を確保するための取り組み」
になります。
そもそも、BCP(事業継続計画)が分からないという方は、まず下の過去記事を参考にしてみてください。
「中小企業強靱化法」に基づく「事業継続力強化計画」ガイドライン
BCP策定にあたり困るのは、何からはじめて良いのかわからない!ということではないでしょうか。
そんな悩みを解決してくれるのが、経済産業省が策定した「事業継続力強化計画」ガイドラインです。
↓これです
出所:経済産業省「事業継続力強化計画」ガイドライン
とりあえず、このガイドラインを一読すれば「何をしなければいけないか」を理解する事ができます。
BCP策定の大まかな進め方は下の4ステップです。
STEP1:ビジネスインパクト分析
STEP2:リスクの洗い出しと発生可能性の分析
STEP3:BCPを発動させる基準の明確化
STEP4:分析をもとにしてBCPを策定
詳しくは「事業継続力強化計画」ガイドラインを読むことをオススメしますが、ザックリと知りたいのであれば、このサイトの関連記事を参考にしていただけると良いと思います。
では次に実際の作成手順です。
「中小企業庁」が作成したテンプレ:中小企業BCP策定運用指針
BCPで何をしなければいけないかは理解できた!
で、次に困る事が、決まった書式が無いため独自に作っていかなければならないこと。
でもちゃんと、そんな悩みを解決してくれるテンプレートがあります。
中小企業庁が作成しきちんとしたものですよ。
↓これです
出所:中小企業庁 中小企業BCP策定運用指針
指針には、中小企業の特性や実状に基づいたBCPの策定方法が、わかりやすく説明されています。
BCP策定に投入できる時間と労力に応じ、4パターン準備されています。
パターン1:「入門コース」(所要時間は1人で1~2時間程度)
パターン2:「基本コース」(所要時間は1人で3~4時間程度)
パターン3:「中級コース」(所要時間は2人で3~4時間程度)
パターン4:「上級コース」(所要時間は数人で1週間程度)
基本的に、このサイトのみでBCP策定作業が完結するようになっています。
「財務診断シート」「従業員携帯カード」「避難計画シート」など、各種帳票のサンプルも用意されており、雛形もダウンロードできるようになっていますよ。
2、シンガポールの新型コロナウイルスに対するBCPガイドライン
このガイドラインはコロナウイルスの感染拡大を受けて、シンガポールで発行されたものですが、とても優れているので、日本の企業でも十分に使えます。
わたしも、今回のパンデミックを受けて、従来のBCPに追加する形で採用しました。
↓コチラから入手できます。
シンガポールの企業でも特に中小企業を対象に作られているため、作成の手間が最小限になっている事がとても優れています。
さらに、事業継続マネジメントシステム(BCMS)の国際規格である「ISO22301」の要求事項にも準拠していますから、対外的にも安心できます。
2020年1月23日、シンガポール共和国(以下、シンガポール)において、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の一次感染者が発見された後、迅速な対応がなされ、同月末に同感染症に対するガイドライン「Guide on Business Continuity Planning for 2019 novel coronavirus」が発行されました。
そして翌月2月、世界保健機関(WHO)により新型コロナウイルス感染症の正式名称がCOVID-19(coronavirus disease 2019)に決定されると、タイトルと掲載内容を一部更新する形で2月7日に「Guide on Business Continuity Planning for COVID-19」(以下、ガイドライン)の第二版が発行されています。
Guide on Business Continuity Planning for COVID-19の使い方
基本的に英語で書かれているものを翻訳してみました。
【目的】
・労働者の健康リスクを最小限に抑える
・感染拡大の前提となるリスクを抑える
・従業員が休業や感染した場合にBCPを発動する
・顧客に対する代替案を確保し、事業の継続を可能にする
【内容】
・人員の管理
・事業プロセス・業務プロセス
・サプライヤー・顧客の管理
・関係先とのコミュニケーション
・感染症警戒レベルへの対応
【BCP手順】
下の表の「感染レベル」とそのときの「対応」を紐つける事で
”このレベルになったら、こういった行動を取る”という事が明確になっています。
以下の出典:Guide on Business Continuity Planning for COVID-19より
【感染レベルの区分】
感染レベルを4つのレベルに区分します。
レベル | 症状 | 混乱レベル | 国民の行動 |
グリーン(軽) | 症状が軽い。または、症状が深刻だが、ヒトからヒトへの感染が発生しない | 最小限の混乱 | ・疑わしい症状は自宅待機 ・適切な衛生管理 ・相談する機関を決める |
イエロー | 症状が深刻。ヒトからヒトへ感染が拡大しているが国外で発生している
国内で感染が認められるがインフルエンザより僅かに深刻な状態か持病のある人たちには深刻になり得る可能性。 |
小程度の混乱
一部の会社・学校の閉鎖 |
・疑わしい症状は自宅待機 ・適切な衛生管理 ・相談する機関を決める |
オレンジ | 症状が深刻でヒトからヒトへの感染が拡大。
国内で広範囲な感染は見られず落ち着いた状態 |
中程度の混乱
病院での隔離、外来患者の制限 |
・疑わしい症状は自宅待機 ・適切な衛生管理 ・相談する機関を決める・国の指示の遵守 |
レッド (重) | 症状が深刻で国内でも広範囲に感染拡大 | 大規模な混乱
休校、リモートワーク、大量の死者 |
・疑わしい症状は自宅待機 ・適切な衛生管理 ・相談する機関を決める・国の指示の遵守・隔離、人混みを避ける |
企業の行動(BCPの発動)
感染レベルに応じてBCP対応を決めておきます
グリーン | イエロー | オレンジ | レッド | |
人員の管理 | 従業員管理規程の見直しをする
従業員の位置情報を更新する |
感染が確認された国や地域への渡航を延期する、また感染国や地域に渡航中の従業員を帰国させる
機関によるアドバイスを定期的に従業員に伝える |
感染が確認された国や地域への渡航を延期する
定期的に従業員に対し健康維持に関するアドバイスを行う |
感染が確認された国や地域への渡航を延期する
定期的に従業員に対し健康維持に関するアドバイスを行う |
事業プロセス・業務プロセス | 十分な数量のマスクや手袋を用意し、使い方を従業員に教育する
職場における清掃、消毒のためのガイドラインを作成する 従業員や来訪者の感染有無確認のための準備をする テレワーク手段を準備する |
適切にマスクや手袋を支給する 職場の共同利用エリアの清掃、消毒を行う 従業員や来訪者の感染有無確認のための調査をし確認体制を整える テレワークを活用する 稼働可能な代替サプライヤーがいない場合、在庫量を増やす |
マスクや手袋を適切に装着する
職場の共同利用エリアの清掃、消毒を頻繁に行う 従業員や来訪者の感染有無確認のための調査を行い、隔離用の部屋を活用する テレワークを活用し続ける |
マスクや手袋を適切に装着する
職場の共同利用エリアの清掃、消毒を頻繁に行う 従業員や来訪者の感染有無確認のための調査を行い、隔離用の部屋を活用する テレワークを活用し続ける |
サプライヤー・顧客の管理 | サプライヤーの連絡先と重要顧客先をまとめる | 代替サプライヤーや配送業者をまとめておく | 代替サプライヤーや配送業者を利用する | 代替サプライヤーや配送業者を利用する |
関係先とのコミュニケーション | 社内向けのコミュニケーションプランを作成しておく
社外向けのコミュニケーションプランを作成しておく |
コミュニケーションプランを実践する 顧客に対し自社でどのように供給を受け、製品やサービスを配送しているかを伝える |
社内に定期的に最新情報を伝える
サプライヤーに対し、集配と配送における代替手段を伝える |
社内に定期的に最新情報を伝える
社外とのコミュニケーションプランを定期的に更新する |
このように、マトリクスにすることで、COVID-19やその他感染症に対して
・社内で感染者を発生させないための対策
・実際に社内で感染者が出た場合の対応方法
・誰が責任をもって対策を実施すべきか
が明確で活用しやすく作られています。
世界規模で感染が拡大するパンデミックにおいては、以下の要点でBCPを策定する事が重要です。
・迅速に動くための準備と体制づくり
・明確な基準の整理
・基準に基づく対策
まとめ
今回は資材購買調達担当者が実際にBCPを作成するポイントについて解説しました。
実は、BCPが必要な場面は自然災害や感染症だけではありません。
BCPを策定しておくと、取引先の倒産、仕入れ先の生産トラブルによる資材の供給ストップなど、他のさまざまなリスクに対しての力も強化できます。
それは、事業継続の力を見直しておくことで、自社の見えないリスクを洗い出し、それに対する備えを常に見直すことができるからです。
BCPをまとめておけば、リスクマネジメントの力も強化されます。
緊急時に確認するべき情報が網羅されているので、有事の際に素早く対策を打つことができますよ。
今回の危機では、もうこれ以上BCP作成を後回しにはできなくなっているでしょう。
今こそ事業継続力の見直しに一歩踏み出してみてはいかがでしょう。
今回は以上です。
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よろしければ、他の記事も参考にしていただけると嬉しいです。