値上げ要求を受けた購買部員:「値上げ要求の文書のお断りメールはどんな理由をかけばいいだろうか?断ったら入荷拒否されないだろうか?購買部としてどう対処すれば正しいのでしょうか?いっそのことテンプレがあったら便利なのに…」
こういった疑問を解決します。
本記事の内容
・値上げ要求に対するお断りメールは逆効果な理由【2つある】
・値上げ要求の正しい対処法
・値上げ交渉は年収を上げるチャンスである【理由あり】
本記事を書いているわたしは、現役の資材購買部長です。
新人の頃は値上げ要求が来たらどうしたらいいかわからず、おろおろしてました。
いきなりお断りメールのテンプレを探したりしていましたが、25年のキャリアがある今は、値上げの対応にも慣れ、的確に対応できるようになりました。
信頼性の根拠として、MIIDAS(ミイダス)の市場価値診断で測定した結果は以下の通り。
副業のコンサル業でも10~20万円/月の収入があるので、年収は1,000~1,500万円といったところです。
262社からのオファーと最高年収は1,100万円でした。
平均の提案年収は678万円ほど。
本記事の最後には購買部員として年収を増やすヒントも書いていますので、ぜひ読んでみてください。
値上げ要求に対するお断りメールは逆効果│こんなテンプレ意味ないよ
結論ですが、値上げ要求を受け取った時に「お断りメール」を入れるのは無意味です。
というか悪手でもあります。
理由は2つあり、以下のとおり。
理由①:メールでは結局断れない│どんなメールを返しますか?
理由②:【事実】断れば不利になる
順番に解説します。
※なお、テンプレが知りたいだけの方は「ビジネス文書の書き方」さんのHPでどうぞ。
値上げのお断り文書に限らず、上記サイトであらゆるビジネス文書のテンプレをダウンロードでき、時短できます。
とはいえ、テンプレで楽してばかりいると一生成長できませんよ。
理由はドリルの回答をすぐ見るコトと同じで、自分で考えない癖がつくからですね。
値上げ交渉はスキルアップのチャンスだから、まずは自分の頭を使いましょう!
理由①メールでは結局断れない│どんなメールを返しますか?
まずは、よくある値上げの申し入れ文書をご覧ください。
鋼材の需要は、自動車を含め、電子機器など、あらゆる分野で堅調に推移しているコトに加え、メーカーの合理化計画による製造拠点の閉鎖、集約化で財源がひっ迫しております。
また市場回復と共に、昨年から原材料も大幅に高騰している関係で、メーカーからの値上げ圧力も強まってきております。加えてメーカーの合理化計画に基づくマージン改善により価格改訂の依頼も入ってきています。
更に、弊社におきましても、これまでは物流費、副資材関連のコスト上昇を社内努力にて圧縮を図って参りました。しかしながら、昨今の事情を受けた費用上昇は、弊社内でも吸収しきれず、販売価格を転嫁せざるを得ない状況となっております。
弊社としましては安定財源を確保し、お客様への供給要望にお応えすべく、今後と鋭意邁進していく所存でございます。
つきましては、当社直近の原材料値上がり分としまして、マージン改訂を以下のとおり、実施したく、ご理解ご協力を賜りますよう何卒お願い申し上げます。
対象品種:鋼材
改訂価格:現行より+18円/kg
実施時期:2021.12.1より
上記の通りですね。
ここで質問です。
上記の申し入れに対して、メールでお断りすることができる部分がありますか?
下手をすると下請法に引っかかる可能性があります。
なお、下請法の理解は「資材調達業務で注意すべき法律【下請法の3ポイントをやさしく解説】」の記事をご覧ください。
理由②【事実】断れば不利になる
値上げ要求を一発目から断ってしまうと、今回はうまくスルーできたとしても、その後の取引きが不利になります。
・値上げするほうも本気
・事実として困っている
上記のとおり。値上げを申し入れする側も本気です。
特に長期で安定取引をしている会社ほど、理由なしに値上げをしてくるわけではありません。
需給がひっ迫した購買品の場合、もしかしたら値戻しの意味合いがあるかもしれません。
例えば以下の例です。
・同業に比べて著しく安価で、仕入れ競争に負けてしまう
・そもそもの単価が低すぎて事業継続が困難
この場合は、値上げを受け入れないと物が入荷しないうえに、将来的に事業撤退をされてしまうかもしれません。
物が入荷しない原因は供給能力の問題もありますが、最大の原因は売り手としての魅力が無いという事実を理解しましょう。
例えば、あなたの会社に売るだけで経営が成り立つぐらいの単価と量であれば、利益が出ているうちは値戻ししませんよね。
一方で、あなたの会社の単価よりも高額でしかも大量に購入してくれる得意先があるのに、わざわざあなたの会社に供給する理由は「お付き合いの関係性」や「供給責任」の部分でしかありません。
つまり、口に出さないだけで、値戻し対象のアイテムはABC分析でいうとCランク商品なので、いつでも撤退されそうです。
事業撤退をされてしまうと、デメリットのほうが大きくなります
・単純に供給ソースが減る
・阿吽の関係が利かなくなり工数が増える
・新規開拓工数のロス
・4M変更評価のロス
・評価期間中の作りだめロス
などなど。
ということで、メールによるお断り文書は意味が無いばかりか、逆に有害ですね。
では、購買部として正しい対処法について次に解説していきます。
値上げ要求の正しい対処法
正しい対処法は以下の通り。
・いったんは交渉の場を設ける
・交渉で大切なこと│論点の明確化
いったんは交渉の場を設ける
値上げの要求をもらったら、一度は交渉の席を設けましょう。
交渉とは、お互いの妥協点の探り合いです。
メールでのやり取りで探り合いは難しいため、交渉の場を設ける必要があります。
また、実際に交渉の場になれば、圧倒的に買い手のほうが有利です。
まずは交渉の場を作ることが重要です。
交渉のコツは以下の記事群で解説しています。
≫現役の購買部長が教える│価格交渉の説得力を上げるテクニック10選
≫資材調達購買のコストダウン交渉はいつどんな場所で行うべきなのか?
≫資材調達購買部員がコストダウン交渉に臨むときの心得10のポイント
値上げ交渉で大切なこと│論点の明確化
交渉事のコツは以下の2点です。
① 論点を明確化
② 論点について議論する
冒頭の値上げ文書の例では以下の通り。
①
鋼材の需要は、自動車を含め、電子機器など、あらゆる分野で堅調に推移しているコトに加え、メーカーの合理化計画による製造拠点の閉鎖、集約化で財源がひっ迫しております。
②
また市場回復と共に、昨年から原材料も大幅に高騰している関係で、メーカーからの値上げ圧力も強まってきております。加えてメーカーの合理化計画に基づくマージン改善により価格改訂の依頼も入ってきています。
③
更に、弊社におきましても、これまでは物流費、副資材関連のコスト上昇を社内努力にて圧縮を図って参りました。しかしながら、昨今の事情を受けた費用上昇は、弊社内でも吸収しきれず、販売価格を転嫁せざるを得ない状況となっております。
④
弊社としましては安定財源を確保し、お客様への供給要望にお応えすべく、今後と鋭意邁進していく所存でございます。
⑤
つきましては、当社直近の原材料値上がり分としまして、マージン改訂を以下のとおり、実施したく、ご理解ご協力を賜りますよう何卒お願い申し上げます。
対象品種:鋼材
改訂価格:現行より+18円/kg・
実施時期:2021.12.1より
最終的な論点は⑤の部分です。
相手の目的は「鋼材価格を2021.12.1から18円上げたい」です。
ではこちらの目的は?
A:納品がひっ迫しているのであれば「ものを入れてほしい」
B:ひっ迫してないのであれば「値上げ分の減額、もしくは延長」
上記のAもしくはBです。
Aの場合なら議論は①と④の部分になりますし、Bの場合なら議論は②と③の部分です。
では、それぞれの交渉の具体例を紹介します。
Aの場合の交渉例
Aの場合は以下の点を議論します。
・価格と供給確保に関連性があるのか?
・価格を上げることによる効果の確約
具体的には以下の通り。
①の文章に対する確認項目
・市場規模の把握と予測
・合理化による減産影響の時期と量を確認
④の文章に対する確認項目
・価格を上げることで、安定財源の確保ができる根拠
・具体的な確保の計画
この場合の次のステップは顧客への価格転嫁です。
上記の交渉で得た資料や知識をもとに、製品価格に転嫁していきます。
Bの場合の交渉例
Bの場合は以下を論点とします。
・値上げの妥当性
・値上げ金額の妥当性
具体的には以下の通り。
②の文章に対する確認項目
・原材料の高騰;大幅にとは?いくらなのか
・メーカーの値上げ圧力とは?どのレベルか
・マージン改善の改訂はいくらなのか?
・そもそも事業赤字なのか?
③の文章に対する確認項目
・物流費の上昇はいくら?
・副資材費の上昇はいくら?
・どれだけを吸収協力いただき、今回はいくら転嫁するのか?
今回の値上げはやむをえないにしても、原因部分が改善されたら値戻しをする条件をつけておくことは購買部員の交渉の基本です。
このあたりのスキルは「調達購買部員が値上げを受けた時の対応│6ステップで解決できる!」の記事の6手順で進めていけば、自然と身に付きます。
Bの場合の結論
今回の事例の実際の交渉はBの条件にあたり、実際の成果がこちら。
①18円の値上げを13円に減額
②13円の値戻し条件として、以下の指標を監視する。
・木材
・原油
減額の根拠
交渉前と交渉後のコストの内訳は以下となりました。
①副資材・物流費 13円
②原料の高騰 5円
①副資材・物流費・原料の高騰 13円
②設備費 5円
上記の通り。
値上げの妥当性検証結果
値上げの妥当性を交渉の中でお互いに検証した結果が以下となります。
具体的には、鋼材の製造に使用する副資材の2016年比上昇率は以下のようになりました。
①製造原価
上がったもの | 上昇率 | コスト要素 |
層間紙 | +22%上昇 | 木材価格 |
フッ酸 | +61%上昇 | 原油価格 |
硝酸 | +15%上昇 | 原油価格 |
②物流費
上がったもの | 上昇率 | コスト要素 |
軽油市場価格 | +15%上昇 | 原油価格 |
物流コスト費比率指標 | +8%上昇 | 人件費 |
③設備費:今後の安定供給を維持するための冷感圧延設備投資費、および老朽化対応費
上がったもの | 上昇率 | コスト要素 |
薄型圧延期投資(2基分) | 不明 | 経費 |
熱処理炉投資(2基分) | 不明 | 経費 |
交渉のポイント
交渉の基本は要素を原価の3要素に分けてみることです。
今回の交渉のポイントは以下のことでした。
これをお互いの納得で決着することが超重要です。
①設備費は経費であるから企業努力で、利益からねん出すべきだよね。
②事実、御社の不良率は○○%もあり、十分改善できる
③当社との仕様規格の緩和、特採での使用、歩留まり要因の改善活動を進めることで1年後の吸収を目指しませんか?
結論:→取引先OK
まとめ:値上げ交渉は年収を上げるチャンス
購買部の値上げ交渉においては、申し入れに対してメールで回答分を送ることは無意味だし、むしろ悪手です。
お断りの文面を考える時間は無駄なので、手と足を動かして交渉の根拠となる情報収集に時間を使いましょう。
情報収集ソースについては以下の記事を参考にどうぞ。
≫有能な資材調達部員だけが知っている市場情報の入手先5選とまとめ方
コスト交渉スキルは一生使えます
コスト交渉のスキルは転職にも有利ですし、ぶっちゃけ、ここまで交渉できれば雇われている必要が無いかもです。
なぜなら、コンサル独立が可能です。
世の中には250万社の会社があり、コンビニよりも多いです。(国税庁HPより)
中にはコストダウン手法がわからずに、言い値を掴まされている会社もあるからコストダウンスキルのニーズはいつでも有益ですね。
例えばわたしが副業ベースで稼げる金額は以下のとおり。
・企業コンサル報酬:1日7万円程度
・公的業務(専門家派遣):1日5万円
・企業セミナー:1日2万円程度
・企業講習:1日3万円程度
上記の金額が稼げます。
プロバイヤーが個人で稼げる秘密
最近は政府からの補助金がブームです。
補助金の申請を通すにはノウハウが必要でして、この業務だけでも大きな収入が得られます。
・補助金の認可報酬:補助金の10~20%(1億なら1000万円です)
・補助金申請の添削:1枚3千円程度
上記の通り。
補助金サポートは「中小企業診断士」の資格があると、公式に受注されやすくなります。
大口の案件を通すことで得られる報酬は魅力的ですよね。
※ここで少し余談をさせてください。
わたしは今の会社で、まさに補助金事業も担当しており、自分で申請書類をかいて、自分で見積もりして、注文、納品、効果報告までこなしています。
これまでに通した案件は総額5億円以上。
・サプラーチェーン対策補助金
・ものつくり補助金
・事業再構築補助金
・エイジフレンドリー補助金
・先進的省エネルギー投資促進支援事業費補助金
でも会社の仕事なので、もらえる報酬は給料のみです。悲しいですよね。
ここで言いたいことは、とても大事なことなので3回くらい音読してください。
スキルが身につく仕事に挑戦→スキルアップ→個人で稼げる→転職も楽勝だし独立も可能
断言しますが、このループがサラリーマンとして仕事をする意味です。
課題をチャンスととらえて挑戦していくと、会社に囚われない人生が開けていきますので、ぜひ挑戦する人生にしてみてください。
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特に「経済学部出身×購買職経験者」なら楽勝で通る資格なので、サクッと取得しときましょう!≫スタディング 中小企業診断士講座
では、今回は以上です。
≫【悲報】悪い円安に対応できない購買部門は不要です│3つの行動基準
≫資材調達購買に必要なスキルとキャリア│未経験からの転職手順も解説