BCP・リスク管理

資材購買調達におけるリスクアセスメントの始め方をわかりやすく解説

先日、ついにわが社でも取引先の一つから「従業員が新型コロナウイルス(COVID-19)に感染した疑いがあるので、緊急で工場を閉鎖します」という連絡を受けました。

この記事を書いてるボクも、資材購買調達部門の長として、早い段階から自社のリスクについてマネジメントし、BCPの体制も万全に整えていたつもりでしたが、いざ現実に向き合うと、想定外のさまざまな問題が発生するものです。

今回は、そんな経験から、「リスクに対して何が不足していたのか?」というポイントを掘り下げてみましたので、情報を共有したいと思います。

・自社のリスクマネジメントやBCPはしっかりしてるから大丈夫なはず。

・でも、もしかしたら、見落としがあるかも、、

・自社の周りでパンデミックのリスクが発生したらどうしよう、、、

・もし自社で今パンデミックリスクにさらされたらどうなるんだろう?

こんな心配がある資材購買調達マンに向けて書いていきます。

ポイントはリスクマネジメントの前段階の「リスクアセスメントの洗い直し」です。

少しでも参考になれば幸いです。

資材購買調達におけるリスクアセスメントの始め方をわかりやすく解説

資材購買調達におけるリスクアセスメントの始め方をわかりやすく解説

リスクアセスメントというのは、主に安全衛生管理において使われるリスクの想定手法です。

わたしも会社で「安全衛生委員会」を10年ほど担当しておりましたから、研修にも参加した事があります。

ポイントは

1、リスクとハザードは違う

2、リスクの特定は「~が~によって~して~する」と対象を明確化する

現在の日本は、このどちらもができていない状況といえるでしょう。

新型コロナウイルス(COVID-19)リスクアセスメントの問題点

今回の新型コロナウイルス(COVID-19)にあたっては12月の早い時期から、リスクアセスメントを開始し、リスクの想定を洗い出した上で、想定されるリスクに対する対応策を順次つぶしていく手法をとったわけですが、以下の点に問題があったと分析しました。

1、リスクアセスメントの時期が早すぎた

2、リスクアセスメントの見直しを行う仕組みが無かった

3、個人的な思いと世論や政府の対応の相違への順応が難しかった

リスクに対応する場合、過去の東日本大震災やタイの洪水、台風19号、熊本地震などの体験から「速ければ速いほど良い」という認識がありました。

しかし、それは自然災害に対応する認識であり、感染症のようなパンデミックに対する経験が不足していたことは否定できません。

パンデミックのような新型のウイルスに対しては、情報が常に更新されていくということを念頭に、リスクアセスメントのスケジュールを考えていく必要があります。

また、政府や世論の風潮や対応が、製造業の品質マネジメントに通じているものから見て、「科学的な確からしさ」が足りないとしても、発生してしまった一種のブーム・ムーブメントには、企業としては乗っかっていかなくてはなりません。

 

次から、具体的なリスクアセスメントの手順について、今回の新型コロナウイルス(COVID-19)に対応した具体例を示しながら解説していきましょう。

3現主義で対応する

新型コロナウイルス(COVID-19)に対しては、感染者数や症状、個人・組織が取るべき対策についてあらゆるメディアが特集を組んでいます。

そのほとんどが視聴率目当ての信頼に足らない情報だということは、企業人ならすぐに気がつくでしょう。

事業継続のために組織が取るべき対策は、メディアが報じる「3密対策」や「テレワーク」をしておけば十分なのでしょうか。

一律に同じ対策を打っておけばいいというわけではなく、自らの頭で考えて、対応を進めていくことが必要不可欠です。

「組織自らの頭で考えて対応を進める方法」については、マスコミよりも製造業のほうが、当然ながら優れています。

わざわざレベルの低いところにあわせる必要なんてないと考えます。

3現主義で現実を知る

マスコミの報道に得るところが無いので、わたしたちは専門の学術論文に目を通さなければなりません。

まず、新型コロナウイルス(COVID-19)の基礎情報(特徴)は4つです。

【COVID-19に関する基礎情報】

・インフルエンザウイルスではなく、コロナウイルスの変異である

・感染力(1人が感染させる人数)は、現在1.4 ~ 2.5人

・致死率は約3%

・潜伏期間は2日から最大12.5日間(おもに5日~6日)

・主な症状は咳、下痢、高熱、呼吸困難(発症しない場合もある)

【COVID-19の特徴】

特徴1)感染力が高く国内感染者数が急増する可能性がある

感染力は、現在1.4 ~ 2.5であるものの、同じコロナウイルスであるSARS(感染力2~4)を遥かに上回る勢いで感染者が増えており、国内感染者数が急増する可能性は十分あります。ちなみにSARSは日本での感染者数はは「ゼロ」でありました。

感染力の参考として、風疹が5~7、一般的なH1N1インフルエンザは1.4~1.6です。

特徴2)高齢者の致死率が高い

COVID-19は肺炎を引き起こすため、免疫力の弱い高齢者で重症化しやすく、致死率が高くなっています。

中国の疾病予防センターからの発表によれば、年代別に

  • 40代以下は0.4%以下、50代は1.3%以下なのに対し
  • 60代では3.6%、70代では8%、80代以上は14.8%

となっています。

特徴3)初期症状が風邪と似ているため、気がつかないことがある

COVID-19は、若い人の間では致死率が低く、加えてその初期症状は普通の風邪に酷似しているため、感染が広まりやすいという特徴があります。

また、COVID-19は通常の風邪と同じコロナウイルスの新型であるので、インフルエンザウイルスとは異なり、空気感染よりも、モノを介した接触での感染のほうがリスクが高いと推測されます。

特徴4)暖かくなると感染力が弱まる可能性があるが今は不透明

SARSと似たコロナウイルスであるため、仮にSARSと同じとした場合、摂氏37度が3日間続くと活動を停止し、摂氏70度15分で死滅することになります。

ただし、COVID-19は肺の奥まで感染が進むため、一度ウイルスが体内に取り込まれるとこの性質は当てはまらなくなります。

つまり、夏の時期にどこまで感染力が弱まるかどうかについては、いまは不透明です。

現実に基づき2つの予想を行う

上記の現実の事実をもとに、今後、直面するシナリオを「楽観的シナリオ」と「悲観的シナリオ」に分けて考えました。

楽観的シナリオ

SARS同様、高温多湿に弱いことが判明。国内では湿度が高くなり暖かくなる5月ごろから減少傾向に入る。7-8月頃にCOVID-19は死滅。国内でいち早く終息宣言が出され、その後WHOより世界終息宣言が出される。

経済は、買い控え需要の揺り戻しが一気に起こり、国内外の需要が上振れする。一部では需要に対して生産が追いつかず機会損失が起こる。

多額の財政出動のツケにより、以前のような順調な経済活動には戻らない。

次の冬を迎えるにあたり、秋口から、再びマスクや消毒液の売り切れが起きる。

リスク分散のため、中国から別拠点(国内・タイ・ベトナム)への工場移転の流れが加速。

悲観的シナリオ

国内感染者数が爆発的に増え始める。SARS同様、高温多湿に弱いことが判明し多少感染者力が弱まるものの、感染者の増加傾向が止まらない。

夏場をむかえると、熱中症などとあわせ、国内の死亡者数が急増。

さらに風水害や地震に見舞われた避難所内での感染者が増える。

経済では、国の指令で事務所の閉鎖や事業の停止が相次ぐ。テレワークに移行する企業が増え、飛行機、電車、バス、タクシー業界は経営難に。

学校も閉鎖し各行事が行えない。娯楽産業や集客、旅行ビジネスは大赤字に陥る。

企業は属人化している業務の問題が顕在化。大幅にテレワークやAI化に移行。

ネット業界(通販、教育、ジムのネット配信)や無人事業(コンビニ、タクシー、配送)の産業が伸びる。また、感染源になりやすい現金取引からキャッシュレス取引が増える。

次の冬もマスクや消毒液の売り切れが継続。

中国から別拠点への工場移転が頻発。

1918年に流行したスペイン風邪の時のように流行が2年目に突入し長期化する。

スペイン風邪とは?

スペイン風邪は、1918年頃に世界で大流行したスペインインフルエンザのパンデミックで、日本でも約40万人の死者を出しました。

症状はウイルス性肺炎で、1918年から1919年にかけて大流行が3回発生。

第一波は、1918年3月に米国とヨーロッパで始まり、夏にかけて大流行。

第二波は、同年の晩秋にフランス、米国で同時に始まりました。

第三波は、年明けの1919年の冬の時期に発生しました。

ただし約80年前の当時は、現代に比べ限られた医療技術や知識しかなく、ネットの普及も無い状態で、情報の共有も少なかったという事実には注意を払うべきです。

企業で行うリスクアセスメントとは

楽観的・悲観的シナリオを描いたので、次は、それぞれについてリスクアセスメントを行っていきます。

具体的な方法は、次のステップにより行います。

ステップ1:リスクの洗い出し

ステップ2:リスクの分析

ステップ3:リスクの評価

詳細は、先ほどの以下資料に記載があります。

 

ステップ1:リスクの洗い出し

設定したシナリオ下で想定されるリスクの洗い出しを行います。ここではQC手法を用いるといいでしょう。

リスクは必ずしもネガティブリスクである必要はなく、ポジティブリスクも含まれます。

例えば、以下の想定リスクが挙げられます。

【想定できるリスク】

▼外的要因

・世の中のニーズが感染症耐性のある製品にシフトし自社製品が売れる

・円安が進行し輸出製品に追い風となる

・オリンピックなどイベントが中止になり需要がなくなる

・感染症の終息とともに需要が急増。生産体制が追いつかず機会損失を出す

・地震や風水害災害に見舞われサプライチェーンの大混乱が起こる

・取引先で感染者が発生し納品がストップ。社内生産もストップする

・飛行機や海運、また通関など、輸送手段や輸入機関がストップする

・中国から別地域への工場移転が起こる

▼労働安全衛生

・社員や社員の家族に感染者が出る

・高齢の社員や経営層に重篤者・死亡者が出る

・マスク・消毒液などの在庫が切れ、生産活動が止まる

・リモートワークが社員の間にストレスを生じさせる

・顧客や取引先との意思疎通の悪さから、設計や納期のトラブルが多発

▼情報セキュリティ

・在宅勤務で情報セキュリティの問題が発生

・在宅勤務での生産性低下

▼風評被害・コンプライアンス

・社員が本人や家族の感染を隠していたことが発覚し風評被害を生む

・会社が対応を公表しないことで、従業員の不満が増大する

・管理者の目がとどかない事による不正行為の誘発

▼事業継続性

・会議ができなくなり意思決定が遅れる

・社員が感染し、属人化した業務が中断する

・長期にわたり海外出張ができなくなる

・重要な取引先が倒産・休業する

・自社の経営資金が枯渇する

ステップ2:リスクの分析

次に、マトリクス図(縦軸に影響度、横軸に発生可能性)に、先ほど洗い出したリスクを割り振っていきます。

この手順は、過去に書いたリスクマネジメントの手順に詳しく書いておきました。

当時は、いち早くシンガポール政府が発行したパンデミックリスクに対応した手順を実行できたことで、対応は完璧だと思っていました、、、

パンデミックにおける企業の注意点

しかしながら、パンデミックのような未知のものに対するリスクアセスメントの前提条件は、時間とともに変化する事があります。

今回、わが社の取引先で休業が発生し、生産が止まりそうになった反省として、次のことに注意しなければなりません。

・想定されるシナリオのアップデートを行う

・世論は必ずしも事実で動くわけではないため、世間の動きも意識する

注意点1:世論の情報に注目する

統計学的に言えば、感染が拡大局面に無いとしても、マスコミや政府が拡大局面だと連日情報発信を続けることで、国内世論の動きは想定とは異なる方向に動く事があります。

注意点2:世論の動きに注目する

また、ウイルス自体の特性や、感染の傾向がデータで明らかになってたとしても、世論が間違った方向に一致した場合、間違えた対応が正義となる場合もあります。

注意点3:世論とのズレを修正する

したがって、企業は、自力で調査・対策を取ることはもちろん重要ですが、一定の期間において、世間とのズレも修正していかなければなりません。

注意点4:修正は世論よりにあわせる

そして、そのズレはを修正する方向は、事実や個人の思いと異なる場合であっても、企業としては世間寄りの対応に修正する必要があります。

ステップ3:リスクを評価する

リスク分析の結果から、積極的に対応を検討するリスクを決定します。

この手順も、先に紹介した【資材調達向け】パンデミックに対応したBCP事業継続計画の作り方 の記事に詳細を書いておきます。

BCPを策定するためのガイドラインは2020年現在、2つ存在します。

基本的に、どちらかのガイドラインにしたがって進めていくだけでOKです。

 

まとめ

今回解説した手法は、もともとは労働安全衛生で学んだ知識ですが、どのようなリスクに対しても活用できる有効なアプローチです。

企業が「リスクアセスメント」を実施し、必要な対策を講じる活動を「リスクマネジメント」と呼びます。

そして、マネジメントの一部として作成される事業継続計画書のことを「BCP」といいます。

今回のパンデミックでは、こうしたリスクアセスメントを身軽に行っていたとしても、

「抜け・漏れ」が出てしまうことを痛感しました。

あなたの会社のリスクマネジメント力・危機管理力の向上の参考になれば幸いです。